会社は1人でも作れる?一人会社の設立方法と株式会社・合同会社の選び方
「会社を作りたいが、自分ひとりしかいない」という状態で、法人化をためらう方は少なくありません。役員も従業員も1人だけで、本当に会社として成立するのか気になるところです。
結論から言うと、会社は1人でも作れます。株式会社・合同会社のどちらも、取締役(または代表社員)1名、株主(または出資者)1名という構成で設立が可能で、実際に個人事業主から法人化する方の多くが、この「一人会社」の形でスタートしています。この記事では、一人会社の基本の仕組みから、株式会社と合同会社の選び方、設立後に必要になる実務、注意点までをまとめて解説します。
一人会社とは何か:役員1名・株主1名で設立できる仕組み
会社法上、株式会社の取締役は1名から置くことができます。かつては取締役会を置く場合に取締役3名以上が必要でしたが、現在は取締役会を設置しない小規模な株式会社であれば、取締役1名・監査役なしという構成で問題なく設立できます。
株主についても同様です。株式会社は発起人(設立時に出資する人)が1名でも設立でき、自分が発起人兼取締役兼株主を兼ねる形が最も一般的な一人会社のパターンです。合同会社の場合はさらにシンプルで、出資者である社員が1名いれば設立でき、その1名がそのまま代表社員として会社を代表します。
つまり「役員が自分だけ」「株主も自分だけ」という状態は、会社法が想定している通常の設立パターンのひとつです。個人事業主が法人成りする場合の大半がこの形であり、特別な許可や条件は必要ありません。従業員を雇わずに、代表者ひとりで事業を続けながら法人格だけを持つという選択も、もちろん可能です。
株式会社と合同会社、一人会社ならどちらを選ぶべきか
一人会社を作る際、最初に迷うのが株式会社と合同会社のどちらを選ぶかです。両者の違いを費用と信用の面から整理すると判断しやすくなります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立費用の目安 | 約22〜25万円 | 約7〜11万円 |
| 登録免許税 | 15万円〜 | 6万円〜 |
| 定款認証 | 必要(約5万円) | 不要 |
| 意思決定 | 株主総会・取締役の機関設計が必要 | 社員(出資者)の合意でシンプルに決定 |
| 対外的な信用 | 比較的高い(社会的な認知度が高い) | やや低いと見られることがある |
| 決算公告の義務 | あり | なし |
費用だけを見れば合同会社が有利ですが、一人会社だからといって合同会社を選べば良いというわけではありません。取引先が「株式会社でないと契約しない」という方針を持っている場合や、将来的に金融機関からの融資、採用活動を見据える場合は、知名度と信用度の面で株式会社を選ぶ方が安心です。特にBtoBで大手企業や公的機関を相手にする業種では、株式会社であること自体が取引開始の前提条件になっていることもあります。
一方で、コンサルティングやフリーランス色の強い業種で、取引先が個人や小規模事業者中心であれば、設立費用を抑えられる合同会社でも実務上の支障はほとんどありません。海外では合同会社と同じ仕組みのLLCが広く使われていることもあり、以前ほど「合同会社は格下」というイメージも薄れてきています。
なお合同会社は、後から株式会社へ組織変更することも制度上は可能です。まずは設立費用を抑えて合同会社で始め、事業が軌道に乗って取引先の幅が広がった段階で株式会社化するという進め方も、一人会社の現実的な選択肢のひとつです。組織変更には登記費用が別途かかるため、最初にどちらを選ぶかで迷った場合は、3年後の事業規模をイメージしてから決めるのも一つの方法です。
一人会社でも欠かせない実務:社会保険・役員報酬・議事録
一人会社は「気楽な個人商店」ではなく、法律上は個人事業主とは別の独立した組織です。役員が自分ひとりであっても、法人として求められる実務は省略できません。
社会保険への加入が義務になる
役員報酬を受け取る代表者は、たとえ従業員がいない一人会社であっても、原則として健康保険と厚生年金への加入が義務になります。保険料の料率は健康保険と厚生年金を合わせておおむね30%で、本来は会社と本人の労使折半ですが、一人会社では会社負担分も実質的に自分の会社が支払うことになるため、役員報酬の約3割が社会保険料として出ていくと考えておくと資金計画が立てやすくなります。
役員報酬は事前に決めて期中は変えられない
役員報酬は原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に金額を決め、そのまま1年間は変更できません。個人事業主の所得のように、稼いだ分だけ自由に生活費へ回せるわけではないため、会社に残す利益と自分が受け取る報酬のバランスを、設立前にある程度シミュレーションしておく必要があります。
株主総会議事録などの形式は省略できない
株式会社は、役員が自分1名であっても、決算承認や役員の再任などを決議する定時株主総会を毎年開催し、議事録を作成・保管する義務があります。実態は自分で決めて自分で議事録を書くだけの手続きですが、これを怠ると後の増資や金融機関の審査、税務調査の際に不利になることがあるため、形式であっても省略しないことが大切です。合同会社の場合は株主総会に相当する手続きが不要で、この点では事務負担がやや軽くなります。
一人会社のメリット
一人会社を作るメリットは、個人事業主のままでは得られない税制と信用の面に集中しています。
- 所得が増えるほど、個人の累進課税より法人税の実効税率のほうが低くなり、税負担を抑えやすい
- 役員報酬に給与所得控除が使え、退職金や共済など個人事業では使えない節税手段が増える
- 法人名義での契約や請求ができ、取引先からの信用が上がる
- 厚生年金に加入するため、国民年金だけの個人事業主より将来の年金額が増える
- 健康保険の傷病手当金など、個人事業主にはない保障が付く
特に大きいのが税負担の変化です。個人の所得税は所得税5〜45%に住民税10%が重なる累進課税ですが、法人税の実効税率は所得800万円以下でおおむね23%前後、それを超える部分でも約33%前後にとどまります。一般的な目安として、所得(利益)が600万円前後に達したあたりから法人化の検討価値が出始め、800万円を超えると多くのケースで法人のほうが有利になります。
一人会社のデメリット・注意点
メリットの裏側で、一人会社には確実に増える負担もあります。設立前に知っておくべき点を正直にまとめます。
- 赤字の年でも法人住民税の均等割が年約7万円かかる
- 社会保険への加入が義務になり、個人事業主時代より保険料の負担が増えるケースが多い
- 決算・申告の事務が複雑になり、自力での対応が難しくなる
- 会社のお金と自分のお金が明確に分かれ、役員報酬以外は自由に使えなくなる
- 役員が自分ひとりでも、株主総会や取締役の任期管理などの形式的な手続きが必要
見落とされがちなのが「代表者が入院や事故で動けなくなったときに事業が止まりやすい」というリスクです。役員が1名しかいない一人会社では、代表者本人が意思決定も実務もすべて担っているため、代わりに動ける人がいません。将来的に事業を拡大する予定があるなら、早い段階から任せられる体制や、万一に備えた委任の仕組みを考えておくと安心です。
また、決算・申告を自分だけで続けるのは現実的に難しくなるため、税理士費用を維持コストとして織り込んでおく必要があります。法人の顧問は月3〜4万円が相場とされますが、当法人は月額15,000円から、記帳代行を含めても月額20,000円からの体制でサポートしています。
バーチャルオフィス・自宅を本店にするときの注意点
一人会社では、事務所を借りずにバーチャルオフィスを本店所在地にしたり、自宅をそのまま本店にしたりするケースが多くあります。費用を抑えられる一方で、見落としやすい落とし穴もあります。
まず許認可を必要とする業種です。建設業、古物商、人材派遣業などは、事業所として一定の要件(実体のある事務スペースがあること、他社と明確に区分されていることなど)を求められることが多く、バーチャルオフィスでは許可が下りない場合があります。自宅を本店にする場合も、賃貸物件であれば事業利用が可能かどうかを、契約前に管理会社や大家に確認しておく必要があります。
次に銀行口座の開設です。近年は法人口座の開設審査が厳格化しており、バーチャルオフィスを本店にしている一人会社は、事業実態の説明を求められることがあります。事業計画書やホームページ、名刺など、実際に事業を行っていることを示す資料を準備しておくと、審査がスムーズに進みやすくなります。金融機関によって審査の姿勢には差があるため、地方銀行や信用金庫など複数の候補を並行して検討しておくと安心です。
クレジットカードの法人契約や、オフィス家具・什器のリース契約でも、事業実態の確認を求められる場面があります。バーチャルオフィスを使う場合でも、名刺やウェブサイト、取引先とのメールのやり取りなど、事業を行っている証跡を日頃から残しておくと、こうした審査でつまずきにくくなります。
自宅を本店にする場合は、法人の登記簿にプライベートな住所が公開される点も考慮が必要です。取引先や不特定多数に住所を知られたくない場合は、費用と信用のバランスを見ながらバーチャルオフィスや事務所利用を検討すると良いでしょう。
一人会社を設立する流れとスケジュール
一人会社の設立手順は、役員が複数の会社とほとんど変わりません。準備から設立完了まで、標準で2週間から1ヶ月程度を見ておくと余裕があります。
- 会社の基本事項を決める(商号・事業目的・本店所在地・資本金・決算月)
- 定款を作成し、株式会社の場合は公証役場で認証を受ける(合同会社は不要)
- 資本金を払い込み、法務局に設立登記を申請する(登記申請日が会社設立日)
- 税務署・都道府県・市区町村への設立届、青色申告承認申請などの税務手続き
- 年金事務所で社会保険の新規適用手続きを行う
- 法人名義の銀行口座を開設し、事業用の資金を移す
個人事業主から法人成りする場合は、これに加えて個人事業の廃業届や、事業用の資産・契約の法人への引き継ぎが発生します。資本金は1円からでも設立可能ですが、当面の運転資金や社会保険料の支払いを考えると、数十万円程度は用意しておくと運営が安定します。決算月は自由に決められるため、繁忙期を避けて決算・申告の作業に時間を割ける月を選ぶと、初年度から無理のない運営がしやすくなります。
よくある質問
従業員を雇わないなら合同会社で十分ですか?
実務上はそれで問題ないケースが多いです。合同会社は設立費用を約7〜11万円に抑えられ、株主総会などの手続きも不要なため、事務負担が軽く済みます。ただし取引先や金融機関が株式会社を前提にしている業界では、信用面で見劣りすることがあるため、自分の取引先の傾向を踏まえて判断することをおすすめします。
一人会社でも社会保険に入らないといけませんか?
役員報酬を受け取っている限り、原則として加入が義務になります。役員報酬をゼロに設定すれば加入義務を回避できる場合もありますが、その場合は自分の生活費を確保できなくなるため現実的ではありません。社会保険料は役員報酬の約3割を占める前提で、資金計画に組み込んでおくのが安全です。
資本金はいくら必要ですか?
制度上は1円からでも設立できます。ただし資本金は登記簿に公開され、取引先や金融機関が会社の体力を見る材料のひとつにもなるため、極端に少ない金額は信用面で不利に働くことがあります。当面の運転資金や社会保険料の支払いに耐えられる金額を目安に、無理のない範囲で設定するのが現実的です。
まとめ:一人でも会社は作れる。選ぶべきは形式より運営のしやすさ
会社は1人でも作れます。株式会社・合同会社のどちらも役員1名・株主1名で設立でき、実際に多くの個人事業主がこの形で法人成りしています。株式会社は費用と手続きがやや重い分、対外的な信用が高く、合同会社は費用を抑えられる分、意思決定がシンプルという違いがあります。
一人会社であっても、社会保険への加入や役員報酬の設定、株主総会議事録の作成といった法人としての実務は省略できません。ISJでは、株式会社・合同会社どちらの設立にも対応し、設立後の記帳・決算まで一貫してサポートしています(顧問は月額15,000円から。全国オンライン対応)。自分の場合はどちらを選ぶべきか迷っている方は、初回相談でお気軽にご相談ください。


