税理士は「選ばれる側」になった。だから私たちは、愛媛でコミュニティをやっている

すべての始まりは、2年ほど前の、ある懇親会の一卓でした。

松山の税理士会でベンダー会が行われ、会計や税務のベンダー各社が最新情報を持ち寄るために集まりました。マネーフォワードやfreee、その他のベンダーさんも来てくださり、私たちも大きな希望を持って臨みました。ところが、スタッフまで含めて集まったのは、総勢100人に届くかどうか。税理士の皆さんの関心は低かった、と言わざるを得ない結果でした。

そのベンダー会のあとの懇親会で、たまたま同じ卓になったのが、マネーフォワードとfreeeの担当者でした。本来なら競合であるはずの2社と、私たち税理士法人ISJ。5人いたかどうかという小さな卓です。そこで誰かが言い始めました。「このままじゃいけない」と。

このままでは、税理士が本当にしたい仕事ができない未来が待っている。本当にたまたま集まったメンバーでしたが、そのメンバーが旗を振り、「やろう」とちゃんと口に出し、そして言葉だけで終わらせずに本当に動き始めました。面倒だと端から眺めるのではなく、一緒に何ができるのかをきちんと話し合う場を、すぐに設けてくれた。あのとき、前向きに「ちゃんと動こう」と言ったメンバーがいたからこそ、今があります。あのとき動いておいて本当によかったと、今になって、より強く思います。

すべての始まりとなった、ベンダー会のあとの懇親会での一枚。
すべての始まりとなった、ベンダー会のあとの懇親会での一枚。この日、この熱量のメンバーとベンダーさんたちがいたからこそ、今のコミュニティと、愛媛の熱量があります。

今日は、なぜ私たちがこのコミュニティをやっているのかを書いておきたいと思います。

第1回のセミナー会場。まだ席の半分も埋まっていない部屋で、この会は始まりました。
第1回のセミナー会場。まだ席の半分も埋まっていない部屋で、この会は始まりました。
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愛媛から見えた、地方の税理士業界の現実

税理士法人ISJは、たまたま愛媛県にあります。ただ、愛媛という土地で税理士業界を見て、全国の先生方と交流を重ねる中で、はっきりと見えてきたものがありました。

愛媛の税理士事務所の多くは、職員5人以下の小さな事務所です。会計ソフトはインストール型が主流で、所長の高齢化も進んでいます。過去10年以上、顧問先の決算申告をミスなくやり遂げてきた実績があり、正直なところ、変わらなくても食べていける。だから動かない。ある県では300事務所のうち250事務所が50代以上だと聞きましたが、愛媛も大きくは変わらないと思っています。

これは愛媛だけの話ではありません。四国も、中国地方も、「地方」と呼ばれる地域には、同じ構造と、同じ熱量の不足があります。もし小さな愛媛からこの状況を変えることができたなら、全国の地方にも横展開できるはずだ。そう考えました。

顧問先が、ソフトを選ぶ時代になった

私たちが本当に問題だと思っていることは、もう少し切実です。

以前は、会計ソフトも税務ソフトも、税理士が決めるものでした。顧問先は、先生が使うものに合わせるのが当たり前だった。ところが今は違います。経営者自身がリサーチをして、自分たちが使いたい会計ソフトを選び、それを使える税理士を選ぶ。税理士は「選ばれる側」になりました。

そして地方では、いまこんなことが起きています。地元で先進的にクラウド会計を導入した経営者が、地元の税理士に「うちは対応していません」と言われ、東京や大阪の税理士に依頼せざるを得ない。本当は地元の、顔の見える先生に見てもらいたいのに、その先生が対応できないから見てもらえない。

数字で見ると、この差はもっとはっきりします。愛媛県内だけでも、マネーフォワード、freeeはそれぞれ単体で1,000社ほどの導入があると思います。それに対して、令和8年9月現在、freeeで最上位の星5の認定を受けている税理士事務所は2社、マネーフォワードでプラチナメンバーの税理士事務所は5社です。しかもその中には、愛媛を主軸にしているのではなく、全国規模の事務所の愛媛支店も含まれています。顧客の数に対して、対応できる税理士があまりにも少ないのです。

税理士は顧客のために存在しています。その顧客の多くが困っている問題に手をつけないのは、本当に顧客を大切に思っていると言えるのか。本気で思っているなら、必ず手をつけなければいけないところだと、私は思っています。

怖い気持ちも、よくわかる

ただ、私は税理士なので、税理士側の気持ちもよくわかります。

新しい分野に手をつけるのは怖い。パソコンやIT、クラウド、AI、DX、最近ではAXとも言われますが、こういう領域に足を踏み入れることへの恐怖は、決して笑えるものではありません。職員に反発されて辞められたら、今の顧問先を回せなくなる。そういう現実的な恐怖もあります。

だから私たちは、「現状」と「怖さ」のあいだに立つことにしました。freeeとマネーフォワードと税理士法人ISJが真ん中に立って、一緒に一つずつやってみませんか、と声をかける。怖いものではないので、やってみたら大丈夫です。皆さんできますよ。それを伝えるのがこのコミュニティの役割です。

この会は、誰のための場所か

この会で「最先端の事務所になりましょう」とは言いません。私たちが来てほしいと思っているのは、今の業務が属人化していてしんどい、でも変えるのも大変で、変わりたくはないけれど、なんとなく変えないといけない気もしている、そういう先生です。焦りや恐怖を煽るのではなく、まず自分の時間を少しでも取り戻してもらう。そこから一歩ずつ、顧問先に向き合う余裕を作っていく。そのための場所です。

そして、ここに来ていれば時代に置いていかれない、最新の情報はここで手に入る、という安心感のある場所にしたいと思っています。実際、会のあとのアンケートで一番喜ばれているのは、ソフトの機能紹介ではなく、他の事務所の先生と報酬の決め方や日々の悩みを生々しく話せたことでした。地方の税理士は、思っている以上に孤独です。横でつながれる場そのものに、価値があるのだと感じています。

競合の2社が、なぜ隣に並んでいるのか

このコミュニティの一番の特徴は、マネーフォワードとfreeeという、本来なら競い合う2社が、同じ会場に並んでいることだと思います。私たちの知る限り、クラウド会計のベンダー2社と税理士法人が共同で運営しているコミュニティは、他にありません。

もちろん、ベンダーには商売があります。両社とも会員数を増やしたいという本音はありますし、それを隠すつもりもありません。それでも、この会では「他社だから競い合う」のではなく、「クラウド会計という素晴らしいものを、田舎からでも世の中に広めていこう」という一点で足並みを揃えてくれています。登壇者の費用も懇親会の費用も折半、ブースも横並び。会場には、隣の事務所をライバルではなく仲間として見る空気が、自然と生まれています。

4月の「春のクラウド祭り」。ベンダーの担当者が、先生方一人ひとりに実機で説明している様子。
4月の「春のクラウド祭り」。今のクラウド会計に何ができるのかを、実際の画面で確かめようと、たくさんの先生方が集まってくださいました。

4月の「春のクラウド祭り」では、今のクラウド会計に実際どんなことができるのかを、先生方が画面の前で一生懸命に理解しようとしてくださっていました。そしてベンダー側も、一人ひとりに本気で寄り添い、少しでも良さを分かってもらおうと必死でした。その姿を横から見ていて、この会をやってよかったと心から思った瞬間の一つです。

私自身、両方のソフトを実際に使い分けている立場です。どちらが優れているかではなく、顧問先が選んだものに対応できる税理士を増やしたい。その一点で、3社の思いは一致しています。

毎週水曜17時、ああでもないこうでもない

あの懇親会での「やろう」から、私たちは毎週水曜日の17時にオンラインで集まり続けてきました。1年近く、ほぼ毎週です。

「どうすればもっとクラウド会計を使ってもらえるのか」「どうすれば顧問先のことをちゃんと見られる税理士が育つのか」。ああでもない、こうでもないと考え抜いてきました。今年3月には松山市内の44事務所を、飲み物を持って一軒ずつ訪ねて回りました。ベンダーからの案内メールでは動かない、でも顔を見て話せば来てくれる。それが愛媛の先生方だと知っていたからです。

その積み重ねの上に、実際の会があります。2025年12月に始まった第1回から、1月の「いまさら聞けないクラウド会計」、4月の実機体験「春のクラウド祭り」、6月には福岡の伊藤会計の伊藤桜子先生を招いて残業を90時間から9時間に減らした実例を、9月には会計事務所のためのAI活用術を扱いました。9月の回では、回答いただいた全員が「満足」と答えてくださいました。

本当に初めの頃は、税理士の先生が5人来るか来ないか、というところからのスタートでした。それが少しずつ実り、いろいろな先生方に活動を知っていただき、今では会場がしっかり埋まるようになってきました。

6月、福岡の伊藤会計さんが登壇された回のセミナーの様子。
6月、福岡の伊藤会計さんが登壇された回。本当にたくさんの方が集まってくださいました。
6月の回の集合写真。
同じ回の集合写真。税理士の先生が5人来るかどうか、というところから始まった会が、ここまできました。

そして10月にはマネーフォワードの辻庸介社長が、11月にはfreeeの佐々木大輔社長が、愛媛に来てくださることになりました。10月は辻社長に加えて、AI活用で今もっとも注目を集めている税理士のお一人、ソルビス税理士法人の境裕介先生も登壇してくださいます。

10月20日「愛媛コミュニティ×士業サミット」の案内。
10月20日(火)15:30〜18:30、TKP松山市駅前カンファレンスセンターにて。士業向け、参加無料、懇親会付き。

10月20日の回は、こちらから申し込めます。
セミナー申込ページ(マネーフォワード)

11月のfreee佐々木社長の回は、現在ページを準備中です。公開され次第、SNSなどでお知らせしますので、こちらも楽しみにお待ちください。

freee Advisor Day 2026の会場で、freeeの佐々木大輔社長と。
freee Advisor Day 2026の会場で、freeeの佐々木大輔社長と。

先日、佐々木社長にも直接お会いして、愛媛コミュニティにかける私たちの熱い思いと、11月の登壇についてしっかりお話ししてきました。こちらの思いはきちんと届いたと感じています。11月の回も、きっと熱い一日になると思います。

第1回の懇親会。ベンダーの皆さんを入れても10人に届きませんでした。
第1回の懇親会。ベンダーの皆さんを入れても、10人に届きませんでした。
数回目の懇親会。同じ店の前で、輪は確実に大きくなっています。
数回目の懇親会。同じ店の前で撮った一枚ですが、輪は確実に大きくなっています。

小さな卓で話した熱量が、「やろう」の一言で行動になり、行動を続けたことで、ここまできました。

まだ小さな灯火ですが

結果が出た、と言い切れる段階ではありません。せいぜい、何もなかったところに小さな灯火が一つできた、というくらいだと思っています。

それでも、この灯火を絶やさずに続けていくことが、いずれ事業者を守り、その家族を守り、地域を守り、地方を守り、日本全体が豊かになる未来につながると、本気で信じています。税理士を上げることは、顧問先の経営者を上げることであり、地域を上げることであり、最終的には国力を上げることだと思うからです。

私たちの活動は、目の前の先生や顧問先を救いたいという思いから始まっています。でも、この活動が救える人は、目の前にいる人たちだけではありません。だから熱量高く、みんなで本気になって取り組んでいます。

一緒に、一つずつやってみませんか

分からないことは、恥ずかしいことではありません。この会は、分からないものを持ち寄って、共有しながら、共に成長していく場です。私たち自身も、分からないことだらけの中で一つずつ進んできました。

クラウド会計という素晴らしいものを、ぜひ知ってもらいたい。触ってもらいたい。食わず嫌いで、触っていない、見ていない、知ろうとしない、というのは、あまりにももったいないと思っています。

とりわけ、地方の先生にこそ、触れてほしい。地方の顧問先さんは、地元の先生を求めています。求められている先生だからこそ、これまで触れる機会の少なかったものに触れて、その便利さと、顧客に提供できる豊かさを味わってほしい。そして足元から、顧問先に「一緒にやりませんか」と言える先生になってほしい。そういう思いで、私たちは足並みを揃えています。

会への参加は無料です。必要なのはパソコン一台と、ほんの少しの好奇心だけ。クラウド会計を一度も触ったことがない方も、職員の方と一緒に来ていただいても構いません。この取り組みに賛同してくださる方がいれば、愛媛の方でなくても構いません。全国どこからでも来ていただきたい。そして、顧問先が選んだものに「うちも対応できますよ」と言える税理士が、一人でも多く増えてくれたら嬉しいと思っています。

この灯火は、まだ小さい。だからこそ、一緒に一つずつ、大きくしていきませんか。

この記事を書いた人
伊東 稔人(いとう なるひと)
税理士法人ISJ 代表社員・税理士

愛媛県松山市で税理士事務所を運営。掲げるミッションは「地方を日本のど真ん中にする」。税理士の仕事とは、目の前の人の豊かさを最大化することだと考えている。どこに住んでいても、その人にとっての豊かさとは何かに真摯に向き合い、共に考え、共に最大化していく。その延長線上に、マネーフォワード・freeeと共同で運営する愛媛のクラウド会計コミュニティがある。
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